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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)335号 判決 1998年10月07日

東京都武蔵野市中町2丁目9番32号

原告

横河電機株式会社

代表者代表取締役

美川英二

訴訟代理人弁護士

尾崎英男

東京都大田区雪谷大塚町1番7号

被告

アルプス電気株式会社

代表者代表取締役

片岡正隆

訴訟代理人弁理士

武顕次郎

橘昭成

七條耕司

主文

特許庁が、平成8年審判第13421号事件について、平成9年11月25日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告は、名称を「熱転写プリンタ」とする実用新案登録第1939711号考案(昭和58年10月21日出願、平成2年9月26日出願公告、平成4年11月25日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

被告は、平成8年8月9日、原告を被請求人として、本件考案につき、その実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成8年審判第13421号事件として審理したうえ、平成9年11月25日に「登録第1939711号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年12月3日、原告に送達された。

(2)  原告は、平成10年6月5日、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を平成10年審判第39040号事件として審理したうえ、平成10年7月28日、上記訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし、その謄本は、同年8月26日、原告に送達された。

2  訂正前の実用新案登録請求の範囲の記載

キャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行なうとともに印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンの巻取り力を断続しヘッドダウンの時にのみ熱転写リボンの巻取りを行なうようにした熱転写プリンタにおいて、前記印字ヘッドをダウンさせて印字を行なう際には、その印字開始位置より手前に前記印字ヘッドをダウンさせ、前記印字ヘッドをその分だけ空送りして所定の印字開始位置まで移動させるようにしてなる熱転写プリンタ。

3  訂正審決により訂正された後の実用新案登録請求の範囲の記載

キャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行なうとともに印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンの巻取り力を断続しヘッドダウンの時にのみ熱転写リボンの巻取りを行なうようにし、前記印字ヘッドをダウンさせて印字を行う際には、その印字開始位置より手前に前記印字ヘッドをダウンさせ、前記印字ヘッドをその分だけ空送りして所定の印字開始位置まで移動させるようにしてなる片方向に印字する熱転写プリンタであって、

前記空送りを少なくとも1文字分の空送り量とし、

ダウンしている印字ヘッドをアップ後この印字ヘッドをダウンさせて同じ行を印字する際に、指定された印字開始位置に応じてその印字開始位置より手前に前記印字ヘッドをダウンさせ、前記印字ヘッドを前記空送り量分空送りして所定の印字開始位置まで移動させるようにした熱転写プリンタ。

(注、下線部分が訂正個所である。)

4  審決の理由の要旨

審決は、本件考案の要旨を訂正前の実用新案登録請求の範囲記載のとおりと認定したうえ、本件考案は、その実用新案登録出願の日前の特許出願であって、その実用新案登録出願の後に出願公開された特願昭58-178742号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、この実用新案登録出願の考案者が、その発明の発明者と同一でもなく、また、この実用新案登録出願の時において、その出願人がその特許出願の出願人と同一でもないから、本件考案は実用新案法3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件考案の登録は同法37条1項2号の規定により無効とすべきものとした。

第3  当事者の主張の要点

1  原告

審決が、本件考案の要旨を訂正前の実用新案登録請求の範囲記載のとおりと認定した点は、訂正審決の確定により実用新案登録請求の範囲が前示のとおり訂正されたため、誤りに帰したことになるので否認する。

審決が本件考案の要旨の認定を誤った瑕疵は、その結論に影響を及ぼすものであるから、審決は違法として取り消されなければならない。

2  被告

訂正審決の確定により実用新案登録請求の範囲が前示のとおり訂正されたことは認める。

第4  当裁判所の判断

訂正審決の確定により実用新案登録請求の範囲が前示のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、この訂正によって実用新案登録請求の範囲記載の考案に新たな構成要件が付加されたことにより、実用新案登録請求の範囲が減縮されたことは明らかである。

そうすると、審決が、本件考案の要旨を訂正前の実用新案登録請求の範囲記載のとおりと認定したことは、結果的に誤りであったことに帰し、この要旨認定を前提として、本件考案が特願昭58-178742号の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であるものと判断したことも誤りであったものといわざるを得ない。そして、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、瑕疵があるものとして、取消しを免れない。

よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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